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2021年04月30日

古池や 蛙鳴き出す 騒音か?

 田んぼに水が張られるとカエルたちが一斉に鳴き出す。
 産卵の環境が整ったことからオスたちが求愛のために鳴くのだという。
 寒すぎず、暑すぎず、窓を開けておくにはちょうどいい季節だ。
 風呂上り、カエルの鳴き声を聴きながら、うちわをあおいでビールを飲む。
 気持ちのいいひとときなのに、この鳴き声がうるさくて迷惑だと裁判所に隣人を訴えた人がいる。
 東京・板橋区の住民が
 「隣の家の池でカエルが繁殖し、早朝から深夜まで鳴いている。実際に騒音の大きさを測定したところ、都の環境基準を上回る六十六デシベルだった。これは目覚まし時計の音と同レベル。池のすべてのカエルの駆除と75万円の損害賠償を求める」と東京地裁に提訴した。

 隣人は
 「うちの池には体長3㎝前後の小型のアマガエルが6、7匹、生息しているだけ。鳴き声は自然音であって騒音には該当しない」と反論。
 東京地裁は判決で
 「カエルの鳴き声は自然音のひとつ」と認定したうえで、
 「原告の主張するような大きな音が発生していたと認められる的確な証拠はない。仮に、原告が主張するような音が発生していたと認められるとしても、受忍限度を超えるような騒音とは認められない」と判断、原告の訴えを退けた。

 4年前には神戸市の男性が
 「近所の保育園の園庭で遊んでいる園児の声や太鼓、スピーカーの音がうるさいために、平穏な生活が送れなくなった」とし、保育園に対して防音設備の設置と慰謝料100万円を求めて最高裁まで争った。
 一審の神戸地裁は「耐えられる限度を超えた騒音とは認められない」と判断。
 二審の大阪高裁、最高裁ともに一審判決を支持し、原告の敗訴が確定した。
 ただ裁判の結果がどうあれ、住民の意向を無視できないのが行政。
 東京都武蔵野市や千葉県市川市、愛知県名古屋市などでは保育園の開園を計画したところ、周辺住民から
 「園児の声がうるさくなる」
 「送迎する保護者の車が迷惑」といった反対意見が相次ぎ、開園を延期した事例が相次いでいる。
 
 幼児のはしゃぎ声やカエルの鳴き声を
 「うるさい」と感じる現代人の感性の方が異常なのではないだろうか。

2021年04月20日

ワクチンの糸

 ある日の事でございます。
 お釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶらお歩きになっていらっしゃいました。
 お釈迦様は蓮の葉の間から、ふと下の様子をご覧になりました。
 極楽の蓮池の下は、ちょうど感染症地獄に当たっておりますから、重症患者で満床の病院や人気の途絶えた繁華街などが、はっきりと見えるのでございます。
 すると感染症地獄の底にうごめくカンダタという男の姿がお眼に止まりました。
 この男はいろいろ悪事を働いた大泥棒でございますが、うがいや手洗い、マスク着用には努めていたのでございます。
 お釈迦様はカンダタを感染症地獄から救い出してやろうとお考えになりました。
 幸い、側を見ますと感染症の予防ワクチンがあります。
 お釈迦様はそのワクチンを糸にして白蓮の間から遥か下にある感染症地獄の底へ、まっすぐお下ろしなさいました。

 こちらは感染症地獄の底のウイルスの池で、ほかの罪人と一緒に、浮いたり沈んだりしていたカンダタでございます。
 何気なく空を眺めますと遠い天上からワクチンの糸が、するすると自分の上へ垂れてまいるのではございませんか。
 カンダタは手を打って喜びました。
 ワクチンの糸にすがりつけば、感染症地獄から抜け出せるに違いありません。
 そうすれば宴会や旅行、外出を自粛する必要もありません。
 カンダタは他の罪人たちを押しのけ、引き倒してワクチンの糸をつかみ、上へ上へと一生懸命のぼりました。

 途中、一休みして下を見ると、数限りない罪人たちが、自分の後をつけて、まるでアリの行列のようにワクチンの糸をのぼって来ていました。
 底の方では
 「医療従事者が先だ」
 「年寄りを優先しろ」
 「それより外で働く現役世代が先だ」といった争いも起きています。

 カンダタは
 「こら、罪人ども。このワクチンは己のものだぞ。お前たちは下りろ、下りろ」とわめきました。
 その途端、ワクチンの糸はぷつりと切れ、カンダタたちは暗の底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。

 お釈迦様はこの一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがて悲しそうなお顔をなさりながら、またぶらぶらお歩きになり始めました。

2021年04月02日

プロの技

 食堂には客席から厨房がよく見えるタイプと、厨房が見えないタイプがある。
 厨房が見えない店では注文した料理ができるまでの間、マンガ本を読むか、テレビを眺めている。
 若者は料理を待っている間も、料理が出てきた後も、スマートフォンから目を離さない。
 片手でめん類などを食べ、反対の手でスマホを操作している。器用なものだ。

 厨房が見える店の場合はスマホをいじったり、マンガを読んでいるのはもったいない。
 とくに厨房に面したカウンター席に座ったときは、調理場で働く人たちを見ていた方がスマホのゲームなどよりはるかに面白い。

 三条で人気のある食堂では昼時にラーメン、焼きそば、チャーハン、餃子を次から次へと作り続ける。
 ラーメンを担当しているおやじも、焼きそばやチャーハンを担当する二代目も、動きに無駄がない。
 チェーン店などではめんをテボというザルに一人前ずつ分けて入れてゆでるが、人気店のおやじは数杯分の太めのめんを一度に大鍋に投げ込む。
 めんは熱湯の中でゆらゆらと踊る。
 テボに押し込められていないから鍋の中をあちこちと泳ぎ回る。
 その間におやじはどんぶりにスープを注いでおく。
 頃合いを見て平ザルでめんの湯切りをし、四つのどんぶりに均等に分ける。
 素人なら偏るが、ベテランは均等に分ける。
 これにメンマやチャーシューなどの具を乗せ、背油を振りかけて完成となる。

 二代目は中華鍋で焼きそばを炒める一方、餃子を鉄鍋に敷き詰める一方、どんぶりや皿を並べる一方、別の中華鍋を洗って熱しておく。
 いくつもの作業を手際よく同時並行で進める。
 その様子を見ているだけで、自分も仕事ができるようになった気がしてくる。
 圧巻はチャーハン。中華鍋を振るリズム、鍋の上を舞い、外に飛び出しそうで飛び出さないコメや細切れチャーシュー、それらを炒める「シャッ、シャッ、シャッ、シャッ」という小気味のいい音。
 美味しそうな香ばしい臭いがカウンター席まで漂ってくる。
 これを見て食べるのと、見ずに食べるのではうまさが違う。
 ずっと見ていたくなるプロの技だ。