身勝手な意見書
埼玉県議会が原子力発電所の再稼働を求める意見書を可決し、国に提出した。
埼玉県内に原発はない。
東京電力が世界最大級の柏崎刈羽原発や、チェルノブイリと並ぶ史上最悪の事故を起こした福島第一原発などで作った電気を使ってきた県だ。他県の原発で作った電力を消費するだけの埼玉県が、新潟県や福島県にある原発の再稼働を求める意見書を国に提出したわけだ。
なんとも身勝手な意見書だ。新潟県議会はこれを黙って見ているつもりなのだろうか。埼玉に手も足も出ないのは、サッカーJリーグの浦和レッズに勝てないアルビレックス新潟だけにしてほしい。
正式名は「世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた原子力発電所の再稼働を求める意見書」。
エネルギーの安定供給や経済効率性の向上、環境への適合のために原発の再稼働は「欠かせない」とし、原子力規制委員会が規制基準に適合すると認めた原発の再稼働を国に「強く要望する」ものだ。
関係団体から要望を受けた自民党埼玉県議団などが昨年12月定例会に提案、賛成多数で可決した。同県議会では県議86人のうち6割余の52人を自民党が占めているという。意見書は衆参両院議長、首相、経産相、原子力防災担当相に提出した。
原発立地県が意見書を提出するならともかく、埼玉県のように自分たちの地域への立地は認めず、他地域の原発で作った電力を消費するだけ、いわばリスクは負わずに便宜だけを受けてきた県が、国に再稼働を求めるのはいかがなものだろう。
原発立地県民が「いい加減にしろ、再稼働を求めるなら自分たちの地域に原発を造れ」と思うのは当然のことではないだろうか。
意見書では「将来の世代に負担を先送りしないよう高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取り組みを強化すること」も求めている。
原発から出る、いわゆる「核のごみ」は処分場受け入れ地域がないため、原発敷地内と青森県六ケ所村にため込まれている。再稼働すれば「核のごみ」はさらに増える。「将来の世代に負担を先送りしない」というなら、埼玉県が最終処分場を受け入れればいい。
それもせずに「再稼働しろ、核のごみは原発内にためておけ」はあまりに勝手だ。
意見書には法的拘束力も大きな政治的効果もない。だからといって新潟県が言われっぱなしでは腹の虫がおさまらないという県民も多い。県議会はきちんと反論すべきではないだろうか。