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2013年07月16日

きょうはどうされましたか?

 病院で処方せんをもらい、それを持って調剤薬局に行くと「きょうはどうされましたか?」と聞かれる。
 さっき医師に説明したばかりだ。なんで同じことをまた説明しなければならないのか。
 こっちは具合が悪いから病院に来ている。熱があり、のどや関節が痛み、話すことも億劫なのだ。早く帰って寝たいのだ。
 病院では受け付けでカルテをもらうのに5分、診察で1時間20分、会計で15分待たされた。調剤薬局でも20分待った。
 合計2時間。
 燕三条駅から新幹線に乗っていれば、いまごろ東京駅に着いている。
 さっさと薬を受け取って帰りたいのに、解熱剤や鎮痛剤、せき止め、鼻水止めなどの薬を机の上に並べられて「どうされましたか?」。
 自分が並べた薬を見ればこっちの症状くらい分かるでしょと言いたいのをぐっと我慢して「風邪です」。
 相手は分かっていますよと言わんばかりにうなずき、薬の説明を始める。
 分かっているなら聞くなよ、こっちは辛いんだから。

 薬剤師もおしゃべりが好きで説明しているわけではないらしい。
 薬剤師は「調剤した薬剤の適正な使用のために必要な情報を提供しなければならない」と薬剤師法に定められており、これに違反すると1年以下の懲役か50万円以下の罰金に処せられる。
 薬歴というカルテも書かなくてはならないため、やむなく症状を聞くのだという。
 厚労省には病気で辛いときに「どうしました?」と聞かれてイライラした経験のある役人はいないのだろうか。

 患者は病気の話が大好きな老人ばかりではない。
 思春期の若者もいれば、年頃の女性もいる。
 風邪程度ならいいが、便秘や痔(じ)に苦しんでいる若い女性は「どうしました?」と聞かれて、どう答えればいいのだろう。
 病院と違って診察室があるわけでもない。
 他の患者に筒抜けのオープンカウンターでは言いにくい病名はたくさんある。
 日本薬剤師会は「個人情報保護方針」を定め、個人情報の保護に努めると宣言している。
 自分が行く調剤薬局がたまたま配慮していないだけで、他の薬局はプライバシーに配慮しているのだろうか。

2013年07月07日

偉大なる「お」

 「おビール」という言い方が広まっているようだ。
 飲食店の女性だけでなく、お客の女性まで「おビール下さい」などと注文している。
 接頭語の「お」は敬語のなかでも分類が難しい。「お名前」のように相手のものや行為について、相手を立てるために使う場合は尊敬語になる。
 同じように相手を立てるためであっても相手ではなく、自分の行為に「お」をつける「お届けする」などは謙譲語になる。「先生のお手紙」は尊敬語、「先生へのお手紙」になると謙譲語というのだからややこしい。
 「お酒」や「お魚」など単にものごとを美化するための「お」もある。かつては丁寧語とされていたが、文化庁は平成十九年にまとめた「敬語の指針」で従来の丁寧語を丁寧語と美化語に分け、「お酒」などを美化語に分類した。
 「お魚」など和語には「お」、「ご祝儀」など漢語には「ご」を使うことが原則で、以前はビールのような外来語に「お」や「ご」はつけなかった。

 ビールは「お」を付けられるまでに出世したが、生ビールは出遅れており、まだ「お生ビール」とは呼ばれない。ウイスキーやコーラ、ウーロン茶などもまったく出世できずにいる。
 ジンライムに「お」を付けたら加齢臭が漂ってきそうだし、マンゴージュースに「お」を付けたら下ネタと間違えられてしまいそうだから、万年ヒラは決定的だ。
 それに比べて和語の酒や茶は「お」を付けた方が呼びやすい。「おビール」はまだ女性が使っているだけだが「お茶」や「お酒」は性別を問わずに使われているだけ格上だ。
 飲み物界の出世頭は「お神酒」だろうか。
 「お」を取ったら女性の名前かメガネ店と間違えられる。
 いや、もっと上がいた。
 みそ汁の別名、おみおつけだ。漢字で書くと御御御付。接頭語とは違うものの、「お」の三段重ねはすごい。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』なら「じぇじぇじぇ」、チョーびっくりとなる。
 無知無教養を売り物にするおバカタレントや、肥満体系が売りのおデブ芸人もいる。「お」が付くと言葉のマイナスイメージが裏返るのだから、「お」は偉大だ。だからといって「おっさん」と呼ばれるのは嫌だが。