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2013年02月23日

三条のサンマ

 江戸時代、殿様は庶民の暮らしを知らない。下衆魚のサンマなど食べたことがない。ある日、目黒に遠乗りに出かけた殿様がうまそうな匂いに気付く。村人がサンマを焼いていたのだ。家来が止めるのも聞かずにサンマを食べた殿様はこの魚が大好きになる。また食べたいと思っていた折、好きなものを食べられるという親族の集いで「余はサンマを所望する」。家臣たちは殿様になにかあっては大変と余計な気を遣い、脂は体に悪いだろうとすっかり抜き、骨がのどに刺さっては大変と残らず抜いてしまう。台無しになったサンマを食べた殿様が不機嫌に、どこで求めたものかと聞くと家臣は日本橋の魚河岸と答える。世間知らずな殿様は、海や魚河岸とは無縁な目黒こそサンマの産地と思い込み、「それはいかん、サンマは目黒に限る」と断言するというのが落語「目黒のサンマ」だ。
 家臣たちがすっかり抜いてしまった青魚の脂は、以前からアルツハイマー予防に効果があると言われていた。このことを京都大学iPS細胞研究所の井上治久准教授のチームが実験で確認したという。アルツハイマー病になると脳内の神経細胞が死滅し、記憶障害などが起こる。研究チームは患者の皮膚から作ったiPS細胞で患者の脳内と同じ状態にした神経細胞に、青魚に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)を投与した。その結果、細胞の死亡割合は投与しなかった場合の約半分に減ったという。青魚を食べることがアルツハイマー予防となるのかどうかはこの研究では不明だが、成果は新薬開発などに役立てられるという。
 青魚にはDHAのほかエイコサペンタエン酸(EPA)も多く含まれている。これらは不飽和脂肪酸と呼ばれ、悪玉コレステロールや中性脂肪を減らし、血液をさらさらにする効果がある。代表的な青魚はイワシやマグロ、サバ、サンマなどで、いまの季節はブリやニシンが旬だ。殿様のように目黒まで行かなくても地元三条で十分、新鮮な青魚が手に入る。