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2011年09月15日

原子力ムラの陰謀

 陰謀説好きがいる。「事件の裏にはCIAやKGB、フリーメイソンがからんでいる」といった類の話が大好きな人だ。ケネディ米大統領の暗殺は、軍産複合体が仕組んだ事件だったという説がその代表例。アポロは実は月面着陸しておらず、宇宙飛行士が月面を歩く映像は米国内で撮影したものだとの荒唐無稽な説もある。
 それらを比べるとスケールは小さいが、今回の鉢呂吉雄前経済産業相辞任劇をめぐっても陰謀説が飛び交っている。鉢呂氏は北海道大学農学部卒で元農協職員。社会党出身の脱原発論者で、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)にも反対してきたという。
 自民党の河野太郎代議士が自身のブログに書いている。「残念だ。鉢呂経産相は、野田総理の原子炉の新規立地はしない、耐用年数が来たものは確実に廃炉にするとの方針を着実に進めようとしていたし、それを実現するためのかなり大胆な人事を考えていた。経産省内外の抜擢すべき人物の発掘を多方面に依頼していたし、ガンとよばれる幹部の異動も考えていたふしがある。個人的にはかなり期待していただけに残念だ」と落胆している。「今回は、不思議なことに与党幹部からも後ろから鉄砲で撃つ発言があった。なにか裏があったのだろうか」と疑り、「東京新聞特報部、テレビ朝日の玉川さん、自由報道協会、正義を守るために出動せよ」と説いている。河野氏はさすがに何を疑っているのかまでは書かなかったが、自分自身は明確に原子力政策の見直しを主張している。
 鉢呂氏の辞任会見の際に大臣を怒鳴りつけた記者がいた。「あなたね、国務大臣をお辞めになる、その理由ぐらいきちんと説明しなさい」と命令口調で質問し、鉢呂氏がそれに答えている最中に、大臣の発言をさえぎって「何を言って(国民に)不信を抱かせたか説明しろって言ってんだよ!」と怒鳴った。その記者を「そんなやくざ言葉やめなさいよ。記者でしょう。品位を持って質問してくださいよ」と注意したのはフリーランスの田中龍作記者。注意されたのは経産省記者クラブに所属する大手マスコミの記者らしい。  田中記者は「大臣を辞任に追い込んだ記者クラブの面々は鼻高々だ」「記者クラブと官僚の目障りになる政治家は陥れられる。鉢呂氏の場合、『脱原発と反TPP』が、記者クラブメディアと官僚の機嫌を損ねていたことは確かだ」とブログに書いている。
 ミステリー小説にするなら題名は『原子力村の陰謀』あたりだろうか。

2011年09月08日

走り、跳び、投げる!

 中学生のころ、陸上部の生徒に「陸上って走ったり、ジャンプしてるだけだろ。毎日走ってるだけの部活のどこが楽しいんだ?」と聞いたことがある。からかっていたわけでも、けんかを売っていたわけでもない。本当に不思議だった。
 野球やサッカー、バスケットなどの部活でも、練習を始めるときにはまず走るが、それは基礎体力をつけるためだ。球技は走れなければできないが、走れるだけでもできない。走って基礎体力をつけたあとに、ボールを使った練習がある。そこからが楽しいから部活を続けられる。
 基礎体力をつけるために5キロ、10キロと走る基礎練習を楽しいと感じたことは一度もないが、試合を楽しむためには我慢しなければならない。ランニングや腹筋、腕立て伏せは我慢してやるものだ。それ自体が好きな生徒がいることが不思議だった。いじめられて喜んでいるマゾヒストなのだろうかと思っていた。陸上部員は「楽しいっていうか、走るのが好きだから」と答えた。
 韓国テグで開かれた世界陸上は面白かった。男子100m走で優勝候補のウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)がフライングで失格して以後、他の種目のスタートも緊張して見るようになった。男子800mではマサイ族のデービッド・ルディシャ選手(ケニア)が圧勝した。ルディシャ選手の黒光りする鋼のような肉体を見ると、自分のぜい肉だらけの体がハンペンかさつま揚げのように見えてくる。
 女子走高跳びではアンナ・チチェロワ選手(ロシア)がブランカ・ブラシッチ選手(クロアチア)を破って優勝した。2人とも秋葉原で売っているフィギュア並みに手足が細長い。フィギュアが鹿のように跳躍するのだから、まるでアニメの世界を見ているようだった。
 中学時代に戻れるなら、陸上部員に謝りたい。陸上競技は面白い。短距離走のスタートの緊張感、長距離走の駆け引き、投てき種目のプレッシャー、リレーで毎回のように起きるドラマ。シンプルなルールで走り、跳び、投げる力を競うからごまかしがきかない、本当の力と力の勝負になる。やたらと興奮し、うるさくはしゃぎ回る司会者ではなかったら、もっと競技に熱中できたかもしれない。