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2010年09月23日

千と千尋とオリックス

 プロ野球オリックス・バファローズの金子千尋投手(26)が絶好調だ。9月19日の対日本ハム戦に先発。今季7度目の完封こそ逃したものの、8回途中まで6安打無失点と好投した。これで7月1日の対楽天戦から無傷の13連勝。ハーラー単独トップの17勝目をマークし、最多勝争いで一歩リードした。いまやオリックスにとどまらず、パ・リーグのエース格となった金子投手。にもかかわらず出身地が三条市であることを知らない三条市民が意外に多い。
 金子投手は小学4年生まで三条市立南小学校に通い、南ジュニアスポーツ少年団で野球を始めた。その後、NTTに勤めていた父親の転勤のため、長野市に移転。長野商業、トヨタ自動車を経て平成16年にオリックスに入団した。金子投手も自身の公式サイトに出身地を「新潟県三条市」と記している。
 南ジュニアで一緒に野球をした同級生は「小学生のころはそれほど野球がうまいとは感じなかったけど、高校生になって久しぶりに見たときはものすごくなっていた。三条市民球場で高校野球の北信越大会が開かれ、長野商業のエースだった千尋が投げた。体をムチのようにしならせて投げる千尋独特のしなやかなフォームは当時からのもので、高校生のなかで別格。千尋はプロに行く!と思いました」。
 プロ1年目は故障に苦しめられて1軍での登板はなかったが、2年目に中継ぎで21試合に登板。3年目途中から先発ローテーション入りして6勝、4年目には10勝、昨年は11勝をマーク、オールスター戦ではベストピッチャー賞を受賞した。今季は2年ぶりに開幕投手を努め、現在までに29試合に登板。17勝7敗で、うち7試合は完投。7、8月と連続で月間MVPを受賞している。
 金子投手は昨年、1勝につき10万円ずつ貯金し、たまった110万円を母校の長野市立朝陽小学校に芝生の養生費として寄付した。同小の職員室前には「金子千尋コーナー」がある。子どもたちは同コーナーに張り出されている新聞記事を読んで自分たちの先輩であり、ヒーローである金子投手に声援を送っている。
 金子投手は5年前には7・13水害と中越地震の見舞金として三条市と新潟県にそれぞれ100万円を寄付しているが、三条市には朝陽小のような「千尋コーナー」はない。子どもたちの身近なヒーロー、夢を与えてくれる存在に十分なり得るのに、もったいないことだ。
 ちなみに今シーズンはソフトバンクから金子圭輔選手が移籍してきたため、新聞は金子投手のことを「金子千」と表記している。千尋が千になってしまったら、まさに「千と千尋の神隠し」。三条市は「千尋」の名を忘れてはならない。

2010年09月19日

「龍馬伝」と「竜馬がゆく」

 中学生のころから坂本龍馬が好きだった。「歴史」の試験はまるきりダメだったが、龍馬が活躍した幕末に関しては、優等生に負けないくらい詳しかった。龍馬ファンを自認していたのだが、NHK大河ドラマ「龍馬伝」を見て気が付いた。自分は司馬遼太郎の小説「竜馬がゆく」のファンなのであって、真の龍馬ファンではないようだ。「龍馬伝」の龍馬がどうにも好きになれないのだ。
 「竜馬がゆく」と「龍馬伝」では、龍馬の人物像がまったく違う。「竜馬がゆく」の龍馬は不潔でずぼら、普段は無愛想だが、話し始めると愛嬌がある。なかなか火がつきにくいが、いったん燃え出したら豪快な炎を吹き上げる心を持つ、スケールの大きな人物として描かれている。「龍馬伝」のようなスマートさや、ちょっとしつこいくらいの優しさはない。
 「龍馬伝」は岩崎弥太郎が龍馬を回想する形で物語が進行する。弥太郎は龍馬を嫌っているが、龍馬は弥太郎を慕ったり、かばったりする。「竜馬がゆく」では、龍馬も弥太郎が嫌いだ。龍馬は顔を見れば弥太郎を愚弄し、弥太郎は龍馬の前ではいじけて音も出せない。
 好きじゃないと言いながらも「龍馬伝」で楽しみにしていた場面がある。伏見の寺田屋で捕吏に囲まれるシーンだ。「竜馬がゆく」では、後に龍馬の妻となるおりょうが風呂に入ろうとして捕吏に気付き、裸のまま二階の龍馬たちのいる部屋に駆け上がって「坂本様、三吉様、捕り方でございます」と叫ぶ。龍馬がおりょうに階下に行くよう命じても、おりょうは自分だけ逃げることを断る。龍馬が笑って服を着るよう命じると、ようやくおりょうは自分が裸でいることに気付き、捕吏たちを突き飛ばして階段を下りる。着物を着るや一目散に薩摩屋敷まで走り、急を知らせたという有名なエピソードだ。
 NHKは大河ドラマでこの場面をどう演出するのか、ひそかに期待していた。その放送が9月5日だった。おりょうは風呂場で捕吏に気付いた。急いで二階の龍馬たちにそれを知らせる。「坂本様」と叫ぶおりょうは・・・ 浴衣を着ていた。なんだ、つまらない。由美かおるの入浴シーンのない「水戸黄門」のようなものではないか。
 「龍馬伝」の視聴率は、いまのところ昨年の「天地人」、一昨年の「篤姫」を下回っているようだ。海援隊の設立や船中八策の立案など、龍馬の大仕事はまだまだ残っている。ばん回できるだろうか。

2010年09月13日

早寝、早起き、朝カレー?

 「朝カレー」のCMが流れている。人気プロ野球選手が大手食品メーカーのレトルトカレーを食べている。おいしそうな演技には見えないが、朝食にカレーを食べる率は増えつつあるとの調査結果がある。カレーのスパイスには漢方の生薬に似た効果があり、「仕事や勉強の前にカレーを食べて脳内血流を増やすことは良いことだ」と説く学者までいる。
 「朝カレーがあるなら、朝ラーメンもありだ」ということか、丸の内や新橋では早朝に開店する有名ラーメン店が増えつつあるという。もともとは深夜勤務明けや、明け方まで飲んで帰宅するサラリーマン向けだったが、最近は出勤前のサラリーマンも多く立ち寄っている。
 朝カレー、朝ラーよりは馴染みやすいのが朝もち。新潟市、マルシン食品の「おはよう!朝食もち」が売れているそうだ。時間のない朝でも調理しやすいように従来品より厚さを20%ほど薄くしてある。同社では五分でできる「おもち入りしいたけのお吸い物」「ふわふわ~おもち入りオムレツ」といったレシピも紹介し、朝食もちを売り込んでいる。
 三条市が平成16年度に小中学生の生活実態調査を行った。このなかに毎日朝食を食べている子どもと、食べていない子どもの学力調査がある。小学4年生の国語では、朝食を食べている子の平均偏差値が52.9だったのに、食べていない子はそれより2.1ポイント低かった。算数にいたっては食べている子の52.5に対し、食べていない子は3.8ポイントも低かった。中学2年生でも食べている子と食べていない子の差は歴然としている。算数は1ポイント、英語は2.6ポイント、国語は2.7ポイント、食べている子が、食べていない子を上回った。
 「早寝、早起き、朝ごはん」は文科省はじめ、各都道府県、市町村の教育委員会が推奨している。その成果か、朝食を食べない子は年々少なくなっているようだ。三条市では、朝食を食べない子の比率が平成17年は小学生8.1%、中学生11.2%だったが、昨年は小学生5.3%、中学生8.0%に減った。
 朝カレーや朝ラーの「早寝、早起き、朝ごはん」はありだろうか。食育担当者は「食べないよりは食べた方が良いと思いますが、カレーやラーメンばかりだと脂肪エネルギーに偏ってしまい、ビタミンやミネラル、食物繊維などが不足してしまいます」。三条名物カレーラーメンもさすがに朝からはきつい。

2010年09月03日

住民を守る医療 & 医療を守る住民運動

 市民運動は大別してふたつに分けられる。ひとつは行政や大企業などに何かを働きかける運動。もうひとつは他に働きかけるのではなく、自分たちの行動を変える運動。多くは前者。「怒り」に火をつける反対や、公共に利益供与を求める陳情の方が住民パワーを結集しやすいからだろう。
 後者の代表的な例が兵庫県の「県立柏原病院の小児科を守る会」。3年前、同病院の産科と小児科が閉鎖の危機にあると知った地域の母親たちが結成した。当時、同病院小児科の医師は2人。うち1人が院長就任のため異動することになり、残る1人は「これ以上の負担に耐えられない」と退職を決意した。
 最初に上がった声は病院や行政に対する不平や不満だったが、徹夜が続く小児科医の過酷な勤務実態を知ると、母親たちは医師にこれ以上「頑張れ」と言えなくなった。そこで同病院の医師増員を求める署名運動を行った。ここまでは一般的な市民運動。冒頭の分類で言えば前者だ。
 しかし行政、なかでも県の対応は遅い。待っている間に医師がいなくなってしまう。人任せでは解決しない。自分たち自身で医師が働きやすい地域を作るしかないと母親たちは運動方針を転換した。
 医師に過酷な勤務を強いている一因が「コンビニ受診」。軽い症状なのに「翌日の日中は都合が悪い」などと自分の都合で夜間外来を受診する人が多かった。かといって開業医の受診も控え、症状が悪化してから柏原病院に駆け込まれるのも勤務医の負担増になる。守る会は「コンビニ受診を控えよう」「かかりつけ医を持とう」「お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう」の3つをスローガンに掲げた。
 街頭でビラを配ってスローガンに理解を求めたほか、子どもが熱を出したり、咳き込んだときの基本的対応を紹介するパンフレットも作った。小児科外来の窓口には「ありがとうポスト」を設置、医師への感謝のメッセージを書いてもらっている。
 これらの運動の結果、同病院の小児救急患者はほぼ半減した。母親たちの運動に感動した他県の小児科医が自ら希望して同病院に着任するなど、いまのところ医師も確保できている。守る会はいま、小児科だけではなく、地域医療全般を守る活動を続けている。
 私たちを病気やけがから守ってくれているのが地域医療。一方通行の関係ではなく、私たちも地域医療を守るという意識が必要だ。県央では救命救急センター設置に向けた議論が始まっている。医療関係者だけでなく、一般住民の意識も大切だ。