千と千尋とオリックス
プロ野球オリックス・バファローズの金子千尋投手(26)が絶好調だ。9月19日の対日本ハム戦に先発。今季7度目の完封こそ逃したものの、8回途中まで6安打無失点と好投した。これで7月1日の対楽天戦から無傷の13連勝。ハーラー単独トップの17勝目をマークし、最多勝争いで一歩リードした。いまやオリックスにとどまらず、パ・リーグのエース格となった金子投手。にもかかわらず出身地が三条市であることを知らない三条市民が意外に多い。
金子投手は小学4年生まで三条市立南小学校に通い、南ジュニアスポーツ少年団で野球を始めた。その後、NTTに勤めていた父親の転勤のため、長野市に移転。長野商業、トヨタ自動車を経て平成16年にオリックスに入団した。金子投手も自身の公式サイトに出身地を「新潟県三条市」と記している。
南ジュニアで一緒に野球をした同級生は「小学生のころはそれほど野球がうまいとは感じなかったけど、高校生になって久しぶりに見たときはものすごくなっていた。三条市民球場で高校野球の北信越大会が開かれ、長野商業のエースだった千尋が投げた。体をムチのようにしならせて投げる千尋独特のしなやかなフォームは当時からのもので、高校生のなかで別格。千尋はプロに行く!と思いました」。
プロ1年目は故障に苦しめられて1軍での登板はなかったが、2年目に中継ぎで21試合に登板。3年目途中から先発ローテーション入りして6勝、4年目には10勝、昨年は11勝をマーク、オールスター戦ではベストピッチャー賞を受賞した。今季は2年ぶりに開幕投手を努め、現在までに29試合に登板。17勝7敗で、うち7試合は完投。7、8月と連続で月間MVPを受賞している。
金子投手は昨年、1勝につき10万円ずつ貯金し、たまった110万円を母校の長野市立朝陽小学校に芝生の養生費として寄付した。同小の職員室前には「金子千尋コーナー」がある。子どもたちは同コーナーに張り出されている新聞記事を読んで自分たちの先輩であり、ヒーローである金子投手に声援を送っている。
金子投手は5年前には7・13水害と中越地震の見舞金として三条市と新潟県にそれぞれ100万円を寄付しているが、三条市には朝陽小のような「千尋コーナー」はない。子どもたちの身近なヒーロー、夢を与えてくれる存在に十分なり得るのに、もったいないことだ。
ちなみに今シーズンはソフトバンクから金子圭輔選手が移籍してきたため、新聞は金子投手のことを「金子千」と表記している。千尋が千になってしまったら、まさに「千と千尋の神隠し」。三条市は「千尋」の名を忘れてはならない。