ダメ出し選挙
「ダメ出し」を辞書で調べると「欠点、弱点などを指摘すること」「仕事などのやり直しを命じること」とある。もとは演劇用語で、演出家が役者に演技のやり直しを求めるときに使った。昨年八月の衆院選に続き、今回の参院選も、与党に対して国民が「ダメ」を出した「ダメ出し選挙」だったのではないだろうか。昨年の総選挙で有権者は自民党政治に「ダメ」を出した。今回は民主党政権に対する「ダメ出し」だった。どちらも「これがいい」と前向きな理由で投票先を選んだわけではない。「これはダメ」と、投票しない党や候補者を決めたに過ぎない。勝たせたい政党はなく、勝たせたくない、あるいは負けさせたい政党だけがあったのではないだろうか。
参院選で与党は大敗した。改選前と比べて民主党は10減の44議席、国民新党は3減のゼロとなった。野党は自民党が13増の51議席、みんなの党は10増の10議席などとなった。非改選と合わせても与党は110議席で、過半数に12議席足りない。またしても衆参で多数派が異なる「ねじれ国会」が出現した。
11か月前までのねじれと違うのは、得票数だけなら民主党が依然として第1党である点だ。比例代表で民主票は1845万票を獲得し、16議席を得た。自民党は1407万票で12議席。その差は438万票もあり、自民党も手放しで喜んではいられないのだ。選挙結果を左右したのは選挙区、それも29ある1人区で、民主党は8勝21敗と大きく負け越したために、過半数を失った。
「ダメ出し選挙」の悲劇は、国民が与党の何を否定したのか、野党の何を評価して選んだのか、明確でないことだ。例えば消費税。大手マスコミは「争点だ」とあおったが、選挙結果は増税に前向きな民主、自民両党が圧倒的多数を占めた。増税に慎重なみんなの党は、伸びたといっても10議席でしかない。反対した公明、共産、社民は議席を減らした。争点だったのだとすれば、国民は消費税増税を容認したことになる。民主党の敗因も消費税とは言えなくなる。
「ダメ出し」は、なんでも「ノー」と言っていれば格好がつく。深い知識や考えがない評論家、コメンテーターでも、批判だけなら簡単にできる。国民の「ダメ出し」を、官僚たちはどう見ているだろう。選挙で選ばれた国民の代表が無能なために国民に「ダメ」を出された。ならば試験で選ばれた我々が、国政を担わなければならないと決意を新たにしているのではないだろうか。現状では官僚支配にダメ出しできないのが歯がゆい。