病院は建てたけれど
NHK教育テレビがこのほど、ETV特集「病院は建てたけれど~地域医療・混乱と模索の現場から」を放送した。正直、ぞっとした。立派な病院を新築したものの、医師不足などのためにオープン当初から巨額の赤字を抱え込む自治体病院が相次いでいるという。病院のために財政再建団体に転落しかねない市もあるようだ。
秋田県北秋田市が95億円を投じた市民病院がことし4月に開院した。医師31人でスタートする予定が15人しか集まらず、320床の病棟は半分ほど空いている。このままだと建設費の償還に加え、毎年3、4億円の赤字が市の財政を圧迫するという。青森県十和田市は2年前、164億円をかけて市立中央病院を新築した。医師52人体制で379床を運営する計画だったが、実際に確保できた医師は32人。患者数は入院、外来とも計画を下回り、毎年10億円の赤字を出し続けている。
番組は、ダムや道路建設などの公共事業に逆風が吹くなか、病院建設には「公共事業最後の聖域」との期待がかけられていると指摘している。そのために需要が過大に見積もられ、希望的観測に基づいたずさんな資金計画が立てられ、医師確保のめどもつかないまま各地で身の丈を超えた病院が建設されている。医療の必要性の名の下に、実現できるはずのない計画が次々と作られていると批判している。
千葉県東金市では、ことし4月の市長選で救命救急センター建設の是非が争点となった。現職候補は、重症患者を市外の病院まで搬送するのに時間がかかり、死亡するケースも多いことを指摘し、センターは必要と主張。新人候補は建設費が膨大なうえ、運営費も捻出できないと主張した。結果は現職が当選し、センター建設を推進することになった。
東金市には、開業医との連携システムを構築したことで全国的に有名な県立東金病院がある。同病院が目指すのは予防医療だが、救命救急センター建設に伴って廃止されることになる。病院関係者は「(救命センターの)急性期医療と、慢性期医療は車の両輪。トータルな医療をどうするのかがなされていない」と指摘した。また医師確保に関して若い医師は「病院の新しさや立派さでは医師は集まらない。きちっとした研修ができるかどうかだ」と説いた。
県央の救命救急センターの議論がいよいよ本格化する。センターを作ったはいいが大赤字、あるいは慢性期医療はほったらかしでは困る。「トータルな議論」が必要だ。