« 2010年05月 | メイン | 2010年07月 »

2010年06月20日

病院は建てたけれど

 NHK教育テレビがこのほど、ETV特集「病院は建てたけれど~地域医療・混乱と模索の現場から」を放送した。正直、ぞっとした。立派な病院を新築したものの、医師不足などのためにオープン当初から巨額の赤字を抱え込む自治体病院が相次いでいるという。病院のために財政再建団体に転落しかねない市もあるようだ。
 秋田県北秋田市が95億円を投じた市民病院がことし4月に開院した。医師31人でスタートする予定が15人しか集まらず、320床の病棟は半分ほど空いている。このままだと建設費の償還に加え、毎年3、4億円の赤字が市の財政を圧迫するという。青森県十和田市は2年前、164億円をかけて市立中央病院を新築した。医師52人体制で379床を運営する計画だったが、実際に確保できた医師は32人。患者数は入院、外来とも計画を下回り、毎年10億円の赤字を出し続けている。
 番組は、ダムや道路建設などの公共事業に逆風が吹くなか、病院建設には「公共事業最後の聖域」との期待がかけられていると指摘している。そのために需要が過大に見積もられ、希望的観測に基づいたずさんな資金計画が立てられ、医師確保のめどもつかないまま各地で身の丈を超えた病院が建設されている。医療の必要性の名の下に、実現できるはずのない計画が次々と作られていると批判している。
 千葉県東金市では、ことし4月の市長選で救命救急センター建設の是非が争点となった。現職候補は、重症患者を市外の病院まで搬送するのに時間がかかり、死亡するケースも多いことを指摘し、センターは必要と主張。新人候補は建設費が膨大なうえ、運営費も捻出できないと主張した。結果は現職が当選し、センター建設を推進することになった。
 東金市には、開業医との連携システムを構築したことで全国的に有名な県立東金病院がある。同病院が目指すのは予防医療だが、救命救急センター建設に伴って廃止されることになる。病院関係者は「(救命センターの)急性期医療と、慢性期医療は車の両輪。トータルな医療をどうするのかがなされていない」と指摘した。また医師確保に関して若い医師は「病院の新しさや立派さでは医師は集まらない。きちっとした研修ができるかどうかだ」と説いた。
 県央の救命救急センターの議論がいよいよ本格化する。センターを作ったはいいが大赤字、あるいは慢性期医療はほったらかしでは困る。「トータルな議論」が必要だ。

2010年06月16日

モンスターペアレント

 警察庁はこのほど、「学校がうざいなら、ぶっ壊してきな」と娘をそそのかした東京都内に住むA子(37)を暴力行為教唆の疑いで逮捕した。中学1年のA子の次女(12)やその友人らは、学校の教師から遅刻や喫煙をとがめられたことに腹をたてていた。A子は次女たちをしかるどころか「学校がうざいならぶっ壊せばいい。私たちが中学生のころは消火器をまいたり窓ガラスを割ったりしていた」などとけしかけたという。次女たち6人は親であるA子の「指導」を踏まえ、深夜に中学校に忍び込み、校舎の窓ガラス2枚を割ったほか、学校近くの民家から持ち出した消火器6個を校門付近にまいた。
 学校や教師に理不尽な要求を突きつける親をモンスターペアレントと呼ぶ。「塾の試験日と学校の運動会が同じ日になってしまったので、運動会の日程を変えてほしい」「うちの子はピーマンが嫌いなので、給食ではピーマンを出さないでほしい」「宿題を忘れたぐらいで子どもを怒るとはどういうことなのか」といった要望が実際にあったという。こうした親たちの非常識ぶりは学校以外にも向けられる。商品を万引きした子を捕まえ、警察に通報した店主に対し、謝るどころか「なんでうちの子を捕まえたのか。万引きに気付いたなら捕まえる前に、まず諭すべきだ。子どもがショックを受けている」「子どもが取りたくなるような場所に商品を置いておくのが悪い」などと抗議するモンスターもいるという。
 親がこれでは学校が何を教えても、まともな教育にならない。かといって親の再教育は容易ではない。安倍晋三内閣当時、教育再生会議が「親学に関する緊急提言」を発表した。「早寝早起き朝ごはんの励行」「子どもにテレビ、ビデオを長時間見せない」「乳幼児健診などに合わせて自治体が親学講座を開く」など賛同できる内容がある反面、「子守唄を聴かせ、母乳で育てる」「親子でテレビではなく、演劇などの芸術を鑑賞する」など、政府が家庭内にここまで口を出すのかと反発を招く項目もあった。結果的に緊急提言は「早寝早起き朝ごはん」などの一部を除き、社会には受け入れられなかった。
 PTAで親たちと教師が胸襟を開いて話し合い、子や親の問題行動に対して良識ある解決策を見出していくことが理想なのだろうが、「学校がうざいなら、ぶっ壊せ」と子どもをけしかけるような親はPTAに参加しない。「教育は国家100年の大計」と言うが、裏返すと教育を立て直すには100年はかかるということだろうか。

2010年06月09日

菅首相 63歳

 菅直人内閣が発足した。自ら奇兵隊内閣を名乗っている。市民運動出身首相らしい命名だ。手腕に期待したい。
 ところで菅首相は63歳。アメリカのオバマ大統領は49歳。ロシアのメドベージェフ大統領は44歳、イギリスのキャメロン首相は43歳だ。キャメロン氏と菅氏の年の差は20歳、まるで親子だ。カナダのハーバー首相は51歳、フランスのサルコジ大統領とドイツのメルケル首相はともに55歳。G8(主要国首脳会議)メンバーで菅氏よりも年上は73歳のベルルスコーニ・イタリア首相だけだ。
 日本で戦後、もっとも若くして首相に就任したのは52歳の安倍晋三氏だ。次が田中角栄氏の54歳、細川護煕氏は55歳。平成以降で50代で首相に就任したのは海部俊樹、細川、羽田孜、橋本龍太郎、小泉純一郎、安倍の6氏。60代での就任は宇野宗佑、小渕恵三、森喜朗、麻生太郎の4氏、70代での就任が宮沢喜一、村山富市、福田康夫の3氏となる。宮沢、福田両氏はともに72歳で首相に就任した。40代での首相就任は、戦後はない。昭和12年に45歳で首相に就任した近衛文麿氏までさかのぼらなくてはならない。
 若ければ良いというものではないが、若い首相が誕生しない政治環境は好ましくない。衆院で当選回数を重ね、閣僚経験を積まないと首相になれない日本では、オバマ大統領やキャメロン首相のようなトップは絶対に生まれない。キャメロン首相の政治経歴は下院議員を3期9年務めただけ。オバマ大統領にいたってはイリノイ州議会、つまり地方議会議員を経た後、上院議員を1期3年10か月務めただけだ。
 民主党だけの問題ではない。自民党の谷垣禎一総裁は65歳、公明党の山口那津男代表は57歳、共産党の志位和夫委員長は55歳。社民党の福島瑞穂党首は54歳。G8メンバーと比べれば、お世辞にも若いとは言えない。
 菅内閣では前原誠司国交相、長妻昭厚労相、蓮舫行政刷新相の3氏が40代。枝野幸男民主党幹事長も46歳。40代の活躍を期待したい。