2021年04月02日

プロの技

 食堂には客席から厨房がよく見えるタイプと、厨房が見えないタイプがある。
 厨房が見えない店では注文した料理ができるまでの間、マンガ本を読むか、テレビを眺めている。
 若者は料理を待っている間も、料理が出てきた後も、スマートフォンから目を離さない。
 片手でめん類などを食べ、反対の手でスマホを操作している。器用なものだ。

 厨房が見える店の場合はスマホをいじったり、マンガを読んでいるのはもったいない。
 とくに厨房に面したカウンター席に座ったときは、調理場で働く人たちを見ていた方がスマホのゲームなどよりはるかに面白い。

 三条で人気のある食堂では昼時にラーメン、焼きそば、チャーハン、餃子を次から次へと作り続ける。
 ラーメンを担当しているおやじも、焼きそばやチャーハンを担当する二代目も、動きに無駄がない。
 チェーン店などではめんをテボというザルに一人前ずつ分けて入れてゆでるが、人気店のおやじは数杯分の太めのめんを一度に大鍋に投げ込む。
 めんは熱湯の中でゆらゆらと踊る。
 テボに押し込められていないから鍋の中をあちこちと泳ぎ回る。
 その間におやじはどんぶりにスープを注いでおく。
 頃合いを見て平ザルでめんの湯切りをし、四つのどんぶりに均等に分ける。
 素人なら偏るが、ベテランは均等に分ける。
 これにメンマやチャーシューなどの具を乗せ、背油を振りかけて完成となる。

 二代目は中華鍋で焼きそばを炒める一方、餃子を鉄鍋に敷き詰める一方、どんぶりや皿を並べる一方、別の中華鍋を洗って熱しておく。
 いくつもの作業を手際よく同時並行で進める。
 その様子を見ているだけで、自分も仕事ができるようになった気がしてくる。
 圧巻はチャーハン。中華鍋を振るリズム、鍋の上を舞い、外に飛び出しそうで飛び出さないコメや細切れチャーシュー、それらを炒める「シャッ、シャッ、シャッ、シャッ」という小気味のいい音。
 美味しそうな香ばしい臭いがカウンター席まで漂ってくる。
 これを見て食べるのと、見ずに食べるのではうまさが違う。
 ずっと見ていたくなるプロの技だ。

2021年03月20日

疑念を招くような

 「国民の疑念を招くような会食や会合に応じたことはございません」
 と国会で言い続けてきた武田良太総務相。
 「疑念を抱くかどうかは別として会食や会合には出席したのか」
 と問われても、直接答えずに
 「国民の疑念を招くような…」と同じ答弁を繰り返してきた。
 少なくとも20回以上、同じことを言った。
 東北新社やNTTの接待を受けた総務官僚たちを処分しておきながら、
 「実は自分も会食していました」
 では格好がつかないと思ったのだろうか。
 週刊文春が昨年11月に総務相と沢田純NTT社長などが皇居近くの日本料理店で会食していたと報じると、総務相はようやく同席したことを認めた。
 「ビール2、3杯を頂いて退席した。費用として1万円を支払った」
という。
 官僚と違って「記憶にない」ことはなく、鮮明に覚えていたようだ。

 仮に東京電力が
 「新潟県民の疑念を招くような重大な管理ミスをしたことはございません」
 と釈明したとしても、テロ対策設備が機能不全だったことなどに対する県民の不信感が消えることはない。
 同じように
 「税務署の疑念を招くような交際費や会議費を計上したことはございません」
 と説明したからといって、税務署が申告通りに交際費や会議費を経費として認めてくれるとも限らない。
 「職場の同僚たちの疑念を招くようなせきや発熱ではございません」
 と説明しても、上司や同僚たちは新型コロナウイルス感染症ではないかと疑うかもしれない。
 「地元のみなさんの疑念を招くような山歩きではございません」
 と言ったからといって、山林所有者が背中のかごの山菜を見逃してくれるわけでもない。
 「警察官の疑念を招くような運転をしたことはございません」
 「妻の疑念を招くような相手と飲んでいたわけではございません」
 「夫の疑念を招くような同窓会の三次会だったわけではございません」
 と言ったからといって、すべて許されるわけではない。

 なぜなら疑念を抱くかどうかは相手が決めることだからだ。
 「国民の疑念を招く」かどうかを決めるのは国民であって、総務相ではない。
 そんなことも分からないのだろうか。

2021年03月19日

かけがいのない毎日を守るために

 「かけがえのない毎日を守っていくために、私たちにはやり続けてきたことがあります。中越沖地震や東日本大震災を上回る地震も起こる。その考えのもと、さまざまな事態に対処する手段を積み重ねていく。福島第一原子力発電所の事故の反省を踏まえ、私たちは施設の強化を続けています。見つめ続ける。思い続ける」。
 東京電力が柏崎刈羽原発の再稼働に向け、新潟県内だけで放送を続けているテレビCMのナレーションだ。
 他に
 「先入観とか前例にとらわれず、考えていきます」
 「万が一の、さらに先まで考えます」
 「満足してはダメなんです、ずっと」
 とアピールするパターンもある。
 史上最悪のメルトダウン事故となった同社の福島第一原発事故。
 その反省を踏まえているというのだから、慎重かつ丁寧に、細心の注意を払ってあらゆる事態を想定し、危機管理に万全を期しているのだろうと思わせるCMだが、実態はどうだったのだろう。

 原子力規制委員会は柏崎刈羽原発で核物質防護のための設備が複数個所で長期間、機能を失っていたことを明らかにした。
 東電はこれまで「代替措置をとっている。防護に必要な機能は果たしている」と説明してきたが、2月の休日深夜、抜き打ち検査を行ったところ、機能しなかった。
 テロリストの侵入を防げない状態だった可能性があるわけだ。
 警察署に例えると、署内に置いてある拳銃を狙った泥棒が入り込んでも、気付かないような状態を長時間、放置していたようなものだ。

 同社の警備員は代替措置の不備に気付いていたのに、必要な改善策を講ずることはなかった。
 「福島原発事故の反省を踏まえ」、地震や津波への備えは考えたが、テロ対策までは手が回らなかったということだろうか。
 規制委の更田豊志委員長は
 「分かっていてやらなかったのか、知識が足らなかったのか、なめているのか。そこに非常に強い関心を持っている」
 「データ改ざんや隠ぺいは東電で際立っている。悪い意味で東電スペシャルなのではないか」とあきれている。
 「かけがえのない毎日を守るため」には、原発の再稼働を認めないことが一番だ。

2021年03月05日

ペンギンは助け合い、日本人は押し付け合う

 冷蔵庫内の温度は2度から5度、氷を作る冷凍庫でも氷点下18度ほどだ。
 南極の冬の平均気温はそれより低い氷点下20度で、最低記録は氷点下97・8度。
 人間なら数回呼吸しただけで肺から出血して死んでしまうほどの寒さだ。

 この極寒の地で暮らしているコウテイペンギンたちは、ハドリングという独特の寒さ対策を講じている。
 ブリザード(地吹雪)が吹き荒れるなか、数百羽、数千羽がまるでおしくらまんじゅうをしているかのように身を寄せ合う行動だ。
 ハドルの内側では外側では体感温度が10度以上も違うという。
 どのペンギンも防風役の、寒さ厳しい外側にいるのは嫌だろう。
 内側に入りたいはずだが、ペンギンたちが場所を争ってケンカすることはない。
 一番つらい風上のペンギンは、寒さに耐えられなくなるとハドルの横を回って風下に移動する。
 これで風上となった次のペンギンも、耐えられなくなると風下に回る。
 みんながそれを繰り返すので、どのペンギンも外側と内側を交互に担うことになる。

 ペンギンは嫌な役割を順に担っているが、人間はどうだろう。
 日米安保条約で日本には米軍が駐留している。
 その大半が沖縄県にいる。日本の国土面積のわずか0・6%しかない沖縄県内に、在日米軍基地の70・3%がある。
 このために沖縄県では米国の軍人軍属による犯罪がこれまでに6029件発生も発生した。
 うち580件は殺人や強盗、強姦などの凶悪犯だ。
 3年前には米兵が沖縄の女性を殺害して自殺、5年前には米軍属の男が女性を強姦したうえで殺害した。
 過去には小学生の少女が米兵3人に暴行されたこともある。
 一昨年の米軍普天間飛行場の辺野古移転の賛否を問う県民投票では71・7%が反対。
 賛成は19・0%だけだったが、政府はこの結果を無視している。
 見かねた米国のカリフォルニア州バークレー市議会が先月、辺野古基地建設に反対し、工事の即時中止を求める決議を可決したほどだ。

 ペンギンと違って日本では
 「沖縄ばかり大変な目に遭っているから今度はうちが米軍基地を引き受けよう」
 と手を挙げる都道府県はない。

2021年03月01日

デジタル化 あなたが言う?

 花角英世知事は2月定例会の所信表明(提案説明)で「デジタル社会の実現に向けた取り組み」を推進する決意を示した。
 国がデジタル社会を目指すなか、知事は「本県においてもデジタルトランスフォーメーションを進め、直面する多くの課題の解決や経済成長を実現し、一人一人がデジタル化の恩恵を享受できる社会を築いていくことが必要」と説き、
 「産業構造をより付加価値の高い構造へと転換していくためには、県内企業のデジタルトランスフォーメーションが喫緊の課題となります。新年度はデジタル化の必要性に関する企業トップの意識改革を金融機関や商工団体等と連携して呼びかけるとともに、デジタル技術導入に向けた課題の解決を伴走型で支援します」と述べた。

 デジタル化を進めると言いながら、知事や議場のひな壇に並ぶ幹部職員たちの手元には、分厚い書類が積まれていた。
 A4判の令和3年度予算説明書が686ページ、2年度補正予算説明書が132ページ、議案審議資料が490ページなど、議案関係だけで1500ページを超えた。
 厚さは約6・5㎝、重さ約3・3㎏。
 これに説明資料などを加えた大量の紙の束を手提げ袋や風呂敷に入れ、重そうに持ち歩いている部長もいた。
 昭和のころとまったく変わっていないアナログ的な風景。
 これで「企業トップの意識改革」を呼びかけ、「伴走型で支援」するという。
 
 まるで体形維持に無関心で運動もせず、食べたいだけ食べて太った人が「肥満解消は喫緊の課題。私があなたの体系のスリム化を支援します」と言っているようなものだ。
 漫才なら「お前が言うか」と突っ込みが入るところだが、幹部たちは笑いもせずに真面目な顔で知事の説明に聞き入っていた。

 新潟県はいまだに手数料などを収入証紙で徴収している。
 知事はようやく「手数料等のキャッシュレス決済を含む県の行政手続オンラインシステムを新たに構築」する方針を示し、「先端技術を活用して地域課題の解決に取り組む市町村を支援」すると述べた。
 支援する立場の県のデジタル化は、支援される市町村より進んでいるのだろうか。

2021年02月15日

同調圧力に屈しない青年

 「世間をお騒がせして申し訳ありません」と謝罪する人がいる。
 不祥事を詫びる政治家や経済人、芸能人、スポーツ選手などだ。
 違法行為やモラル違反を犯した場合だけではない。
 離婚や親子げんかといった家庭内のトラブルや、企業内の派閥争い、合併問題などが報じられたときも「世間にご迷惑をおかけしました」と詫びる。
 その人たちが世間に「騒いでくれ」と求めたわけではない。
 世間が勝手に騒いだだけなのに、騒いだ世間が悪いのではなく、騒がせた自分が悪かったと謝る。
 そうしなければ世間から非難を浴びる。
 いわゆる「世間体が悪い」ことになってしまうからだ。

 日本では、子どものころから世間と歩調を合わせるように求められる。
 小中学校では集団行動の和を乱してはならないと教えられる。
 遠足などで勝手な行動をしてはならない、お菓子ですら人と違ったものを持ってきてはならない。
 任意参加の部活動だけでなく、全員参加の運動会や学園祭でも「ワンチーム」が求められ、それに同調しないと「KY(空気が読めない)」「変人」と言われ、仲間外れにされる。

 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長を辞任した森喜朗元首相(83)の問題発言の底流にあるのは、女性蔑視だけではない。
 メンバーの上下関係や会議の雰囲気、提案者に対する忖度などをわきまえずに発言してはならないという同調圧力がある。

 将棋の藤井聡太二冠(18)が地元の愛知県瀬戸市を走る予定だった東京五輪の聖火ランナーを辞退した。
 一昨年に依頼を引き受けたが、その後、東京五輪が一年延期となり、自身は将棋界八大タイトルのうち棋聖と王位の二冠を獲得した。
 ことしはタイトル防衛戦がある。
 「これまで以上に将棋に向き合う必要がある」と考え、昨年11月に瀬戸市に辞退することを伝えた。
 「日本人が一致結束し、みんなで東京五輪を成功させよう。協力しないのは非国民だ」といった同調圧力にもめげることなく、「自分はいま一心不乱に将棋に取り組むべき」と決意し、瀬戸市の慰留工作にも屈せず、辞退の方針を変えなかった藤井二段。
 改めてすごい青年と思う。

2021年01月30日

ティラミス アラミス うっかりミス

 政府が「世界一厳しい」と豪語する原子力発電所の新規制基準。
 いくら審査を厳しくし、最新の技術で安全対策を強化しても、運転に携わる人間がうっかりミスしてしまえば事故は防げない。
 昭和53年に東京電力福島第一原発で起きた日本で最初の臨界事故も、職員が戻り弁の操作をミスしたために制御棒が抜け落ち、発生した。
平成11年に茨城県東海村のJOCで発生、2人が死亡した臨界事故も、職員がマニュアルを守っていなかったために起きた。

国外でも、昭和54年の米国スリーマイル島原発炉心溶融事故は、運転員の判断ミスによって手動で非常用炉心冷却装置を停止させたことが過酷事故発生の一因となった。
昭和61年にソ連チェルノブイリ原発で発生した、福島第一原発事故と並ぶもっとも深刻なレベル7事故も、運転員が無許可で緊急停止ボタンを押したことや、実験のため故意に安全装置を解除していたことなどが原因とされている。

東京電力が再稼働を目指している柏崎刈羽原発で昨年9月、所員が他人のIDカードを使って中央制御室に不正入室していたことが明らかになった。
 安全管理の基本が守られていなかったわけだが、同社がこの事実を公表したのは4か月後の今月23日。
 報道されるまで地元の新潟県にも報告しなかった。
 同社は「核物質防護上の脆弱性が公になる恐れがあること、また、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律により」、なぜこのようなことが起きたのか詳細の公表を控えてきた。

 同社は柏崎刈羽原発7号機の安全対策工事は今月12日に完了したと発表、25日から住民説明会も開いているが、27日になって「7号機の安全対策工事の一部である、6、7号機中央制御室用の陽圧化空調機が保管されている区域のダンパーの設置工事について完了していない」と発表した。
6号機の工事として管理していたため見落としていたのだという。

原発事故は周辺住民の命や健康を危うくし、それまでとはまったく違う生活を強いる。
 「うっかりミス」で家族や地域、仕事や暮らしを奪われたらたまらない。

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