プロの技
食堂には客席から厨房がよく見えるタイプと、厨房が見えないタイプがある。
厨房が見えない店では注文した料理ができるまでの間、マンガ本を読むか、テレビを眺めている。
若者は料理を待っている間も、料理が出てきた後も、スマートフォンから目を離さない。
片手でめん類などを食べ、反対の手でスマホを操作している。器用なものだ。
厨房が見える店の場合はスマホをいじったり、マンガを読んでいるのはもったいない。
とくに厨房に面したカウンター席に座ったときは、調理場で働く人たちを見ていた方がスマホのゲームなどよりはるかに面白い。
三条で人気のある食堂では昼時にラーメン、焼きそば、チャーハン、餃子を次から次へと作り続ける。
ラーメンを担当しているおやじも、焼きそばやチャーハンを担当する二代目も、動きに無駄がない。
チェーン店などではめんをテボというザルに一人前ずつ分けて入れてゆでるが、人気店のおやじは数杯分の太めのめんを一度に大鍋に投げ込む。
めんは熱湯の中でゆらゆらと踊る。
テボに押し込められていないから鍋の中をあちこちと泳ぎ回る。
その間におやじはどんぶりにスープを注いでおく。
頃合いを見て平ザルでめんの湯切りをし、四つのどんぶりに均等に分ける。
素人なら偏るが、ベテランは均等に分ける。
これにメンマやチャーシューなどの具を乗せ、背油を振りかけて完成となる。
二代目は中華鍋で焼きそばを炒める一方、餃子を鉄鍋に敷き詰める一方、どんぶりや皿を並べる一方、別の中華鍋を洗って熱しておく。
いくつもの作業を手際よく同時並行で進める。
その様子を見ているだけで、自分も仕事ができるようになった気がしてくる。
圧巻はチャーハン。中華鍋を振るリズム、鍋の上を舞い、外に飛び出しそうで飛び出さないコメや細切れチャーシュー、それらを炒める「シャッ、シャッ、シャッ、シャッ」という小気味のいい音。
美味しそうな香ばしい臭いがカウンター席まで漂ってくる。
これを見て食べるのと、見ずに食べるのではうまさが違う。
ずっと見ていたくなるプロの技だ。